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東尋坊にいく

■ 日程
 95年8月23日〜95年8月25日(0泊3日)
■ 走行距離
 約400km
■ 行程
8月23日 京都〜(R1)〜大津〜(R161)〜今津

今津駅前で休憩

8月24日 今津〜(R161)〜マキノ〜(R303)〜西浅井〜(R8)〜敦賀〜河野〜(R305)〜東尋坊福井

福井駅で仮眠

8月25日 福井〜(R8)〜敦賀〜長浜〜大津〜(R1)〜京都

帰宅


 東尋坊までの距離って200キロ弱か。なんとかいけそうな距離かな。そう思ったのは8月のはじめ頃だったか。結局出かけたのはそれよりもかなりあとのことだった。

 8月23日夜。ただ学校から家に帰るだけのはずだったのに、帰る途中で「東尋坊にいこうかな」とふと思った。起きたのは昼過ぎだからなんとか寝ないで走っても大丈夫だろう。そんなわけでとりあえず家に帰って準備。日焼け止め(笑)とタオルを着替えと髭剃りをもった。これだけ準備すればなんとかなるはず。あと、地図がほしかったので白川通をしばらく下ったところの本屋で買った。
 それから白川通を下り、蹴上へ。そこから三条通を東に向かう。上り坂。きつい。いきなりここで苦しくなってきた。まいったな。こんなことで東尋坊までたどり着けるんだろうか。死にそうになりながら峠に着くと、下り坂(って当たり前やん)。さっきまで大変だっただけあってものすごく楽だ。坂を下ったあとはしばらく平坦だからなんとかなるかもしれない。
 しばらく三条通を走って、1号線に合流。西大津バイパスにいく道とそこらへんで分岐したような気がするけど、どうだっけ。別にそっちにいこうと思っていたわけじゃないけど。合流して少しいったところから滋賀県。こっちのルートからいくと滋賀県にはいるまでが短いな。北からいくと大原までいかないといけないからな。(と、ここまでローカルな地名が続くが、、ここからも続く(笑))

 しばらく1号線を走った。どんな道だったかはほとんど覚えてないな。それに夜だったからほとんど何も見えなかったんじゃないかな。それから161号線に乗った。浜大津駅の横を通った。懐かしい。そこからはひたすらほぼ平坦な道を進んだ。大津市にいる間は多少は明るかったけど、大津市を抜けたらすごく暗い。自販機と時々しかない街灯くらいしか明るいものがない。寂しいところだ。最初はほとんど坂もなかったので結構楽だったんだけど、ずっと休まずに走っていたらやたらと汗が出てきていかにも疲れていますという感じになってきた。まいったな。しかたないので少し休んで飲み物を買う。自販機くらいしか明るいところがないので休むのはいつも自販機の前だった。それから先もほとんどなにもなし。長い。なにも考えずにまっすぐ走っているだけ。それはそうと、やっぱり眠くなってきたな。
 疲れているのは多少は我慢できても眠たいのは我慢できない。我慢していたら走りながら寝てしまう可能性もある。しかたない、そこらで寝よう。でも、いくらなんでも道端で寝るわけにもいかないから、地図を見て駅を探す。すると、近江今津駅というのが近くにあるようだ。地図に従い、そっちに向かう。少し探したが、意外とすぐに見つかった。駅のなかに明りがついている。これは多少期待できそうだ。駅に着いて、ドアを開けようとしたら鍵がかかっている。あああ。やっぱりこんな時間(3時)では閉まっているんだろうか。どうしようかとしばらく迷ったけど、やはり眠気には勝てない。駅の前のこじんまりした公園らしきところのベンチで寝ることにした。さすがにベンチは寝心地が悪い。荷物の上にタオルを敷いて枕にして仰向けになって寝たら多少ましだった。しかし、なかなか寝付けない。しかも寒い。あまりにも寒いので、枕にしていたタオルで手を覆って寒さをしのぐ。やっぱり寒い。かなり汗をかいていたので余計に寒い。このままここで寝ていても体力をとられるだけだなと思い、1時間半くらいそこにいた後、出発することにした。日が昇れば温かくなるだろうし、なんとかなるだろう。それに、止まっているより動いているほうがまだあたたかいだろう。駅からさっききた道を戻って161号線にいくのは無駄だと思い、県道54号線を通っていくことにした。琵琶湖沿いのまさになにもない道だ。暗くて何があるというわけでもないのに、車通りは結構多かった。

 しばらく走ってマキノ町に入り、さらにしばらく走って161号線に合流した。それからしばらくして上り坂。地図で見るとたいしたことのない坂みたいだけど、前にきたときにはきつく感じた。今回はなぜか楽に登れた。少し前に休んでいたのが関係しているんだろうか。あと、朝早かったから交通量がそれほど多くなかったというのもあるだろう。ここにきたあたりでもう明るくなってきていたっけ。あの道を暗いうちに走るのはいやだよな。
 峠を越えて少しいったところの自販機でジュースを買って休憩。さて、ここからが問題だ。地図を見ると、161号線をそのままいくより、途中で303号線にいって8号線を走ったほうが楽そうに見える。距離は遠くなるけど、きつい坂を登るよりはましだろう。そう思い、303号線にいくことにした。303号線を少しいったところからトンネル。1キロ以上ある結構長いトンネルだ。あまり車も走ってなかったのでそれほど大変でもなかった。トンネルを過ぎてしばらくいったところで車に乗っている人に「琵琶湖ってどうやっていくんですか」と聞かれた。もちろんいく道を知っていたし、地図も持っていたんだけど、反射的に「知りません」と答えてしまった。自分は今旅をしているんだから、人に道を聞かれても知るわけがないという気持ちが先に出てしまった。その車の人がいってしまってから「あ、知ってるんだっけ」と思ったけど、もう遅い。でもその車は正しい道に曲がっていった。よかったよかった。
 それからまたトンネル。トンネルからしばらく下ってやっと8号線についた。さて、これからながい登り坂だ。緩い登り坂をひたすら走る。坂はきつくないんだけど、長いからそれはそれで疲れる。しかもまわりにはなにもない。途中、「産業廃棄物処理場建設反対」とかいう看板がたくさん立っていた。琵琶湖の支流にこんなものを作ったらしゃれにならないんじゃないだろうか。うーむ。それからしばらくして集落すらもなくなり、登坂車線がある多少急な坂になった。それを登りきると、敦賀市に入り、道の左側に広い駐車場。ドライブインがあったけどこんな朝早くにはやっていないようだ。駐車場に自転車を止めて適当に休んだ。これでしばらくは楽だぞ。敦賀まではなんとかいけそうだな。
 そこで休んでいたらどこからともなく犬がきた。なんかほしそうな感じなんだけど、なにもあげるものは持っていない。そのときぼくはウーロン茶を飲んでいたんだけど、そんなものはいらんだろうし。そんなことを考えていたら思わず手を滑らせてウーロン茶の缶を落としてしまい、その音に驚いた犬はどこかに逃げていってしまった。あーあ。それからまだしばらくいたけど、明るくなっていたのでそれほどゆっくりする暇もないなと思い、出発することにした。

 そこからは下り坂。楽だ。161号線と合流してさらに多少下り。そうしてやっと敦賀市街に着いた。やっと半分くらいのところ。まだまだこれからだ。暑かったし、腹も減っていたのでどこかで休みたい。走っていたら敦賀駅という表示を見つけたので敦賀駅に向かった。駅でしばらく涼んで、立ち食いうどんを食った。貧しいな。敦賀駅に着いたのが午前7時くらいだったかな。朝早いわりには人がたくさんいた。
 飯を食って多少楽になった。休むこともできたので体力回復。さて、あと半分。がんばろう。駅にいくのに別の道に入っていたのでそこからまた8号線に戻って8号線を走る。1ヵ月くらい前に走った道。ところどころ覚えているところもある。思わず前に泊まったところに寄ろうかなと思ったけど、思っただけ。さすがにそんな余裕はない。港にいくほうと8号線にいくほうに別れるところで8号線のほうにいくと、その先は知らない道。どうなるんだろう。
 しばらくいくと道が上り始めた。ああ。もう坂はいやじゃ。で、トンネル。またトンネル。2つ目のトンネルはひどかった。空気が汚い。ほとんど息ができないくらいのほこりと排気ガス。死にそうだ。排気設備があるトンネルなのに、ここまでひどいのか。たぶん交通量が多すぎて追い付いていないんだろう。帰りに通ったときはひどくなかったし。そのトンネルを過ぎたら緩い下り。そうして海岸沿いへ。海岸沿いの道ならそれほど高低もないだろう。それを期待して進む。しかしほとんどなにもない道だ。時々集落があって、時々海水浴場がある。海とその向こうの敦賀半島が見えるだけでほかにはなにもない。単に風景を見に来るならいいところかもしれないけど、通過点としてはいいとは言えないようなところ。
 やっぱり休むところがほしい。時々休むような場所(ベンチとかテーブルとかがある)があったけど、日光が避けられなかったら意味ないでしょうが。そんななにもないところをひたすら走っていたら「杉津」というところに着いた。なぜか「すいづ」と読むらしい。読めんなあ。それから少しして有料道路と分岐した。有料道路にいくわけにもいかないだろうとおもい、8号線をそのまま進んだ。あとで調べたら軽車両は90円で通れたらしい。しまった。そっちにいけば楽だったかもしれない。
 有料道路から別れてしばらくいったところでまた休んだ。飯を食うようなところの自販機の前で休んでいたらそこのおばちゃんに声をかけられてしばらく話した。そのとき9時過ぎくらいだった。で、そこでは話しただけで、飯は食べなかった。それからまた走ってまたトンネル。だからトンネルはこわいんだって。トンネルの入り口にごていねいに「歩行者に注意」と書いてあって多少は安心したけど。トンネルを抜けてしばらくしてまたトンネル。「大谷第5トンネル」だって。ということはあと4つトンネルがあるということか。これはたいへんだ。トンネルを抜けてまたすぐトンネル。休む暇もない。やっとその5つのトンネルを抜けて、最後のトンネルを抜けてすぐのトンネルの陰で少し休んだ。ぼーっと風景を見る分にはいいところなんだけどなあ。なんでこんなに車が走ってるかな。うるさいし、空気が悪い。長くはいたくないところだ。

 それからしばらくして内陸部へ向かう。しばらく海とはお別れだ。不思議なことに海沿いに近いところから内陸に入っていくのに道は下り坂。まあ下る分には構わないけど。そして8号線と別れ、305号線に乗る。また海に向かう。川沿いに下って海に出た。そこでまた例の有料道路と合流した。さて、海。やっぱり風景はきれいだ。海のなかに岩がたくさんあって、ところどころゆっくり見たいなと思うところもある。でも見ている余裕はない。何度も「ここで妥協しよう」と思ったけど、結局は妥協しなかった。途中、奇岩日本列島というのがあったんだけど、よく見なかったのでなんだかわからなかった。岩が日本列島の形になっているんだろうか。それからずーっと海岸沿いの道。
 ここらへんのどこかに滝があったんだけどどこだかわからない。白竜滝という滝だった。そこが公園みたいになっていて、涼しそうだったのでそこで休むことにした。滝の近くにいくと、水飛沫で涼しい。滝から流れている川の水が冷たい。水でタオルを濡らして頭にのっけたらすごく気持ちよかった。たぶんそこで30分くらい休んだ。
 それからしばらくいったら「米ノなんとか地図」とかいう看板があって、なんのことだろうと思ったら、「米ノ」というのは地名だった。一瞬、米がとれるところの地図なのかなと思った(地図には旅館の位置とかが書いてあった)。それから先は海水浴場と旅館ばかり。休むところなんて、ない。しばらくして越前岬近くについたので、岬で休もうかなと思ったんだけど、越前岬トンネルというのをくぐったら、すでに岬を過ぎていた。いったいどうなっているんだろう。

 そろそろ腹が減ってきて飯が食いたかったけど、宿ばかりで飯を食うところがない。結局11時過ぎにやっと見つけて、入ったのは「かに亭」という店。やっぱり越前海岸にきたらかにかなと思ったわけだ(季節が違うという話もあるが(笑))。店に入ってメニューをみて愕然。かに定食は3000円と5000円と8000円。それぞれ量が違うらしい。うーん、さすがに3000円はでないな。しかたなく、刺身定食(1500円)を食べることにした。あとでわかったことは、かに定食というのは刺身定食に差額分のかにがついているもののことらしい。ぼくが半分くらい食べ終わったくらいのときにきた客がかに定食を頼んだのでわかった。刺身はうまかった。それに、腹一杯になった。かに定食を頼んでいたら後悔したかもしれないな(ってそれはないかな)。
 飯を食って落ち着いたのはよかったけど、今度は眠気が襲ってきた。休むところすらないんだから、寝る場所なんてあるはずがない。カフェインが入っていそうな飲み物を飲んだんだけど、たいして効果がない。いろいろ考えて、「少しくらい眠ることができて、涼しくて、すっきりすることができる場所」という条件を備えている床屋に入ることにした。そう決めてからしばらくいったところでやっと見つけた。汗まみれで手や顔が汚れて黒くなっている怪しげな客を見て、店の人はどう思っただろうか。店に入ると、顔を洗うように言われた。やたら汗をかいていたからうれしかった。散髪屋の人が髪を切り始めるとぼくはすぐにうとうとし始めた。もともと寝に入ったんだから当然のことだけど、今考えるとすごくいやな客だよな。まあでももうあそこにいくことはないだろうから気にしないことにしよう。店の人と別の客がなんか話していたけど半分くらい(ちょっと大げさか)意味がわからなかった。「思えば遠くにきたもんだ」とふと思った。
 そこにはたぶん2時間くらいいた。涼しくてすごく快適だった。3700円という値段にはまいったけど。帰り際に店の人が「そこに止めてある自転車は君のかね」とかいうことを聞いた。「はい」と答えると、「どこにいくつもりなのか」と聞くので、「東尋坊までいこうと思っています」と答えるた。「東尋坊までってあと30キロくらいあるよねえ」「ああ、ありますね。でもまああと2時間もあればいけるでしょう」「君、どこからきたの?」「京都です」「京都…、それは大変だねえ」
 そこを出たのが3時半くらい。2時間かかると5時半。日没はなんとか見れそうだ。散髪して思わぬ金がかかったのでその2軒先くらいにあった郵便局で金をおろした。あと30キロ。ここまで来ればあとはなんとかなりそうだ。そこからまた海岸沿いの、まわりには海水浴場と宿ばかりしかない道を走った。あ、そういえばそこらへんは福井市だったんだっけ。福井市が海に面しているとは知らなかった。三国町に入るあたりから工場地帯みたいなところの横を通って、息苦しかった。いろんな気持ちの悪いにおいがした。四日市のそれとはまた違うにおいだった。それからさらに走って県道7号線にのり、また海岸沿いを4キロ走ってやっと東尋坊に着いた。長かった。やっと着いた。

 やっと東尋坊という地名のところについたはいいけど、海岸までいかないといけない。どこにいけばいいのかわからないけど、とりあえず東尋坊タワーというところにいくことにした。そこにいくと、駐車場が有料。500円と書いてある。でも自転車だから気にしない。何かいわれるかなと思ったけど何もいわれなかった。さくっとなかに入って自転車を止めた。東尋坊タワーという建物に入ったんだけど、どこからタワーに上れるのかわからない。しばらく建物のなかを見たけど見つからず、なんだかよくわからなかった。たぶん別のところから入るんだったんだろう。どっちにしてももう上るには遅い時間だったようだった。
 まあ、別にタワーに上るのが目的できたわけじゃないから、気にせず海岸のほうに向かう。どうやっていくのか知らなかったけど、人の流れに乗っていたらいけた。売店がたくさん並んでいたけど、その前に海にいきたかったので海にいった。ちょっと海を見てからボックスに電話した。あまりにも暑かったので飲み物を買おうと思ったら1000円札しかなく、1000円が使える自販機は130円だった。120円のやつもあったのに。なんか損した気分だ。海は静かだった。波はほとんどなかった。人はたくさんいた。すごく先のほうにいっている人がいて、すごいなと思った。こわくないんだろうか。で、まあ、切り立った崖のところにいってみたりした。こわい。平気で下を覗いている人もいたけど、あんなまねはぼくにはできないな。

 しばらくそこらへんにいたら、黒い猫が2匹走ってきた。どうも1匹が逃げていてもう1匹が追いかけているらしい。逃げているほうが崖ぎりぎりくらいのところで追い詰められて、これからどうなるんだという状況。あそこから落ちたらまじで死ぬぞ。ここまできて猫が死ぬところなんて見たくないんですが。そう思ったのも束の間、逃げていたほうの猫が崖の下に向かって飛んだ。え? 落ちたのか?
 と、思ったら崖が階段状になっていて、その下の段に移っただけだった。もう少し勢いがあったらそのまま下に落ちてしまいそうな感じだった。一瞬ひやっとした。しかし、今度はそこから動くことができなくなった。それより下にはいけないだろうし、段が高すぎて上に上がることもできないようだ。ながい柄のついた網でもあれば助けてやることもできるだろうけど、そんな便利なものはない。ぼくが持っているもので一番長いものはタオルくらいだ。で、その崖のほうに近づいて、猫が下に降りる前にいたあたりのところまでいってみた。すごくこわい。しゃれにならん。そこから体を乗り出してみると、下にいる猫が見えた。ぼくがそこにいくまでの間に多少上の段に近いあたりまできているみたいだった。
 で、とりあえずタオルの先を縛って下に垂らしてみた。これをつかんでくれれば、なんとか引き上げることができるかも知れない。途中で放してしまったらそれこそ崖下に転落という感じだけど、今の状況を打開できない限りどうにもならないんだから、やってみたほうがましだろう。で、タオルを下に降ろしてみたんだけど、届かない。もう少し近づいてきてくれれば届くんだけど、近づいてきてくれない。タオルを振ったら飛びついてくるかなと思ったけど、そんなに猫もばかじゃないらしい。飛びつくのに失敗したら死んじゃうもんな。それにタオルにつかまったら助かるなんていう保証はないんだからな。で、ぼくもそこに長くいるのはこわかったので少し戻って、なんかいい方法はないかと考えた。
 しかしなにか道具でもない限り助けるのは不可能だろうと思えた。猫がいるところと同じところまで降りることができれば助けられるかもしれないけど、降りられたとして、今度はぼくが上れなくなるかもしれないじゃないか。それに、そんなところに降りられるのか? そう考えているうちに、身の危険をおかしてまでこの猫を助けることが本当にいいことなのかと思い始めた。ここは、猫は猫と割り切るべきなのかもしれない。最初はたくさんいたギャラリーも、ぼくが最初に助けようとした頃には一人もいなくなっていた。ほっておけば誰か別の人が助けてくれるかもしれないし、自力で助かる可能性もある。そう思ってみてもやっぱり気になる。このまま帰ったら「あのときの猫はどうなったんだろう」といつまでも気になることになる。誰が助けるにしても、助かるところを見るまではこの場を立ち去ることはできないな、と思った。そう思っているうちに猫がさらに上の段の近くに近づいてきた。あのくらいの場所なら届くかもしれない、そう思ってまた崖のほうのいってみることにした。しかし、やっぱり届かない。今猫がいる位置は、体の3分の1くらいが落ちかかっているすごく不安定な場所だ。猫の心臓はぼくの心臓とは比較にならないくらいどきどきしているに違いない。でも届かないものはしかたない。ずっとそこにいても無駄なのでまた戻ることにした。戻って振り返ると、下の段のさっきまで猫がいたところにはなにもいない。あ、ひょっとして落ちたのか? そう思いつつ上を見ると、いた。自力で助かったのか。よかったよかった。猫はそこから少し歩いたところで横になった。きっと落ち着くまでそこにいるつもりなんだろう。「あー、助かった」と思っているんだろう。そのとき、猫も人間とそれほど大差ないなと思った。いやー、緊張した。ぼくも安心して、しばらくぼーっとした。

 まだ日没までは時間があった。でも、日没までここにいたら土産屋が閉まってしまう。そう思い、土産屋がある場所まで戻り、東尋坊饅頭を買った。それから日没がよく見えそうなところまでいき、そこに腰をおろした。太陽と、それに照らされる海。逆光で影のようにしか見えない岩。やっとゆっくりできる。岩場にいる人も減ってきて、本当に静かになってきた。やっぱり海はいいなあとまた思った。そんな風に思っていると、かなり太陽が下のほうに移ってきた。水平線上に帯状に雲があっていやな感じだ。このままでは日没は見られそうにない。ああ、ひどい話だ。太陽は雲のなかに沈んでいった。太陽は見えなくなったけど、あたりはまだ明るい。暗くなるまでいようと思ったけど、真っ暗のなかを歩くのはこわかったので暗くなる前に岩場を去ることにした。売店を通ったけど、もうすでに閉まっていた。東尋坊タワーのなかの売店も閉まっていた。そのくらいの時間から新しく来る人もいたけど、彼らの目的はいったいなんなんだろう(笑)。
 駐車場まで戻り、自転車に乗った。さて、帰るとするか。ここらへんでは泊まれないだろうから、福井駅くらいまでいくことにしよう。そこまでいけば駅にでも泊まれるかもしれないし。県道7号線まで出て、それに乗る。林のなかのなにもない道。暗くなる前に通ったのは正解だった。暗くなってからでは何も見えなかっただろう。その道を8キロくらい走って、305号線に合流。ちょっと国道を走って県道に移り、県道29号線というのを走るはずだったんだけど、暗くてなんだかわからず、迷った。迷っていたのでどこをどう走ったのかわからない。迷って自分がどこにいるのかわからない状況では地図はなんの役にも立たない。適当に走っていたら、なんとか最初に走るはずだった県道29号線に戻ることができ、そこから先は順調だった。福井大の前を通ったけど、暗くてなんだかわからなかった。あと、福井空港の近くで、「空港は海か山へいけ」とかいう看板があった。空港の周りにはあまり人は住んでいないみたいだったけどな。まあ近くなくても騒音はうるさいってことかもしれないが。それからしばらくして県道5号線に合流し、それを進んだ。最初、合流したのに気付かなくて、いつのまにか5号線を走っていたのでびっくりした。また道を間違えたのかと思った。急いで地図を確認したら、その道であっていて安心した。ここらへんの道は決して悪くはないんだけど、暗い。全然街灯がない。標識とかがあっても見えない。近づいてよく見るとやっと見えるといった程度。まったくすごいところだ。
 そうしてしばらく走って福井駅に着いた。日が沈んでからかなりたっているのにまだ暑かったので、まずは待合室にいって涼んだ。たぶん福井駅に着いたのが午後10時前くらいだったと思う。待合室でしばらく仮眠をとった。でも椅子に座りながらだったのでよく眠れなかった。11時になると、待合室が閉鎖されて、外に出ざるを得なくなった。外に出てしばらく休んでから福井駅をあとにした。そういえば福井駅前のコンビニでアイスを買ったらものすごく甘くて大変だったんだっけ。
 福井駅を出てからまた迷った。なんだかわからず適当に走っていたら線路を越える陸橋を見つけ、「これかな」と思っていこうとしたんだけど、車専用らしく、自転車ではいけない。しかたなく別の道を探そうと思い、その陸橋の下を走っている道にいくことにした。でも、道がない。道は左右にはあったんだけど、まっすぐ進めない。ここで線路を渡らないと8号線にいけない。8号線にいかないでもいいけどまた迷うかもしれない。そう思っていたら、自転車に乗った人が後ろからきて平然と前に進んでいった。見ると、その方向に「地下道」という文字が。あー、地下道があるのか。それは気付かなかった。そう思いつつ地下道へ。中は階段になっているのかと思ったら斜面になっていて、さーっとおりられた。線路の下を通るだけだからたいした距離もなく、すぐに上り。ま、勢いがあったからたいしたことはなかった。それからしばらく走ってやっと8号線に乗れた。あとはなにも難しいことはない、ただ8号線に沿ってひたすらいくだけだ。1号線につながるところまでずっと8号線。百数十キロの道のり。8号線が終われば京都まではそれほどない。

 8号線に乗ったので今までよりはいろいろあるだろうと思ったけどそれほど変わらない。暗いし、休むところ(コンビニ)もない。ガソリンスタンドはたくさんあるんだけど、そんなところで休むわけにはいかないよなあ。道自体はほぼ平坦で大変なことはないんだけど、いいかげん疲れているし、ずっと走っているから暑い。自販機でジュースを飲んで休むくらいしかすることがなく、大変だった。
 鯖江市と武生市を通って道は進んだ。武生市街を抜けてからまただんだんまわりになにもなくなって、山に入っていった。疲れているときに坂はきつい。何度も休みながらいった。真っ暗でほとんどなにも見えない道。ものすごくこわい。自転車のライトでかろうじて見える白線だけが頼り。時々後ろからや前から車がきて道を照らしてくれると少し先が見える。でも車が去るとまた真っ暗。そんな道をしばらく走って、武生トンネルに到着。トンネルは2つに別れていて、上り用と下り用(どっちが上りでどっちが下りかは知らないけど)になっていた。トンネル内は2車線になっていたので結構走りやすかった。でも、2台のトラックが並走してきたときは死ぬかと思った。そこから先も暗くてこわかった。夜なのに結構車が走っていたのは北陸自動車道が工事中だったせいだろうか。短いトンネルを3つくらいとおって、305号線と交差して、海岸近くに向かって上り。しんどい。ここらへんはほとんど頭がぼーっとしていた。半分寝ていたともいう。このあたりで星がすごくきれいに見えた。きっと街灯が全然なくて暗いからだろう。休んで星をゆっくり見たかったけど、そんな余裕はない。寝転んで星を見ながら寝たら気分いいだろうなと思ったけど、寝返りを打ったすきに車に轢かれるのが落ちかな。
 このあと例の大谷トンネルを通ったんだけど、大谷トンネルは5つしかないはずなのに7つくらい通ったように思う。夢でも見ていたんだろうか。さっぱりわからない。ひょっとしていつの間にか逆向きに進んでいるんじゃないかと思った(って冷静に考えたらそんなことあり得ないんだろうけど)。でもそれを確かめる手段もなく、まっすぐ進んできていると信じて進むしかなかった。それから敦賀トンネル。これを通ると敦賀市だ。敦賀市に入ったあともまだ不安だった。敦賀市街に着くまでは安心できないと思った。真っ暗で地図を確認できなかったし、止まって休む場所なんてなかったし。それに、止まる余裕もなかった。敦賀トンネルの最後ごろに、トラックが後ろからきていたので端のほうを走っていたら、トンネルの上から大粒の水が降ってきて眼鏡にかかった。ものすごくびっくりした。
 敦賀トンネルを通ってからしばらく下り坂だった。その下り坂を通っているときに、突然トラックがぼくの前に止まったのでびっくりした。よけていこうとしたら、トラックの運ちゃんが「乗っていかへんか」といってくれたけど、反射的に「結構です」と答えた。ここまで自力できて、ここであきらめるのはばからしい。それに、道は下り坂。これを下ってしばらくいけば敦賀市街に出られるんだからという気持ちだった。でも、敦賀市街まではまだ距離があった。まだ12キロ以上あった。ほとんどぼーっとした状態でずっと走っていた。敦賀市街までの距離を実感したとき、やっぱり乗せてもらえばよかったなとふと思った。敦賀トンネルを通ってから数十分、次のトンネルが見えてきた。行きに埃がすごかったトンネルだ。こんなときにこんなトンネルを通らないと行けないなんてひどい、と思ったが、空気はきれいだった。行きよりはかなり車の量が少なかったから排気が間にあっていたんだろうか。それはよくわからないけどとにかく空気はよかった。こわかったけど。でもまあ、トンネルでない部分よりかなり明るいから、その点についてだけはトンネルのほうがよかったりするけど。そのトンネルを抜けてもうひとつトンネルを過ぎるともうすぐ敦賀市街。やっと着いた。遠かった。でもまだ復路の半分が終わっただけ。まだ京都まで100キロ以上ある。

 敦賀市街に着いたとき、どうして自分が生きているのか不思議な気がした。死にそうになったことは一度もなかったけど、一歩どころか半歩間違えただけでも死んでいたかもしれないようなことを何度も体験したからだろうか。その頃は結構目は冴えていた。眠気もあまりなかった。このまままだしばらく走れそうだと思った。でも、たぶんこれは緊張感がまだ抜けていないだけで、安心したら眠くなるだろうと思い、敦賀駅に向かった。まだ3時くらいだったので開いていないかもしれないとは思ったけど、開いてなくてもそこらで寝るくらいの覚悟はあった。敦賀駅に着くと、いかにも開いていないような雰囲気。なかの電気はほとんど消えているし、人影も見えな……おっ? なかに人がいるぞ。ひょっとしてなかに入れるのか? そう思ってなかを見るとなかで2人寝ている。起きている人が1人いて、外に出てくるみたいだ。見れば扉が開いている。すごくうれしかった。なかに入って、少しのあいだ椅子に座っていたけど眠くなってきたので寝ることにした。タオルは濡れて汚れていたので、枕にするものがなにもなかった。しかたなく、4つ続きのプラスチックの椅子3つを使って横になって寝た。しばらくして少し駅のなかが騒がしくなったようだった。たぶん電車がきたんだろうと思うけど、すぐにまた寝てしまったのでわからない。で、結局4時過ぎくらいにまた起きて、便所にいって戻ってきたらなんだか眠気がひいてきたので出かけることにした。
 駅を出て自転車に乗るとまだけつが痛い。しかも太ももがひどい筋肉痛。まいったな。けつが痛くて思うようにこげない。しばらく走ってから、やっぱりもう少し休むんだったと後悔した。でももう遅い。いくらなんでも今から戻るのはばからしい。ここまできたら先に進むしかない。途中で何度も休むながら少しずつ進んだ。161号線と別れるところでちょっと迷ったけど、やっぱり坂が楽なほうがいいだろうと思い、8号線を進んだ。でも楽なほうを選んだはずなのにしんどかった。疲れていたというのが一番の理由なんだろうけど、やっぱり多少きつい坂だったのかな。その坂を上っている頃からもうかなり明るくなってきていた。そういえばここらへんの道を通っているときに蛇を轢いた。最初、死んでいるんだと思って脇を通って避けようとしたら尻尾の先を踏んでしまったらしく、突然蛇が動きだしてびっくりした。蛇のほうもいきなり踏まれてびっくりしただろうな。で、ぼくがこれから進もうとしているほうに逃げるもんだから、前輪と後輪でもう1回ずつ轢いてしまった。そのまま草むらのほうに逃げてしまったのでその後の消息はわからないけど、自転車に轢かれたくらいならきっと平気だろうとは思うが。
 それからしばらく走って、やっと峠。例の駐車場でまた休む。ものすごく腹が減っていたのでそこの自販機でカレーを買った。今考えるとすごく愚かな買い物だったな。600円だったんだけど、量は無茶苦茶少ない。紐を引っぱるとあったまるというのにひかれて買ったんだけど、やっぱり間違ってたよなあ。で、作り方を見ると中味を取り出して容器のなかにあけ、ふたを閉じて紐を引っぱるとあったまるらしい。で、紐を引っぱる。しばらく待ったけどぜんぜんあったまらない。おかしいなと思いつつ紐をもっと引っぱってみたら、さらに引っぱることができ、紐が途中から赤くなった。すると突然湯気が出てきて熱くなってきた。なるほど、そういうことか。でもそれなら「赤い紐が出てくるまで引っぱれ」と書いてくれればよかったのに。そうこうしている時に、例の犬がまたやってきた。また何かほしそうなふうだ。前にきたとき(ちょうど1日前)には何もあげるものがなかったけど、今回はある。でもぼくが食おうとしているものをあげるわけにはいかない。しかたないのでカレーの入っていた袋のごみをあげることにした。すると、しばらく様子を見たあと、袋をなめ始めた。しかしすぐになめ終わってしまい、もっとくれといった表情でこっちを見る。いくらなんでもこれ以上はあげられない。それに、あまりあげてついて来られても困る。んーと思いつつ立ち上がってみると、驚いて吠えながら逃げていってしまった。どこまで逃げたんだろうと思って見てみると、道を渡った向こうのところで寝転んでいる。なんのこっちゃ。ひょっとしたらぼくが動くのを待ち構えているのかもしれないと思ったけど、そんなこともなかったようだ。ぼくが食べ終わって出かけようとしていたときにトラックが駐車場にやってきたら、犬はそのトラックのほうに走っていった。どうやらここにくるすべての人にものをねだっているらしい(笑)。すごい犬だな。で、そのトラックのほうにいっているあいだに、ぼくは先にいくことにした。

 峠を越えたあとだから道は下り坂(ここ、景色きれい)。やっと滋賀県に戻ってきた。気持ちよく坂を下り、303号線にわかれるところについた。ここでまた悩む。303号線にいったほうが早く帰れる。でもそっちにいくと上り坂だ。坂はいやだなと思い、8号線をまっすぐいくことにした。ここらあたりから日が照り始めてものすごく暑くなってきた。どこか涼しいところで休みたいと思ったけどそれらしい場所もなく、耐えるしかない。トンネルを通ったときは涼しかったけど、トンネルを抜けると地獄の暑さ。朝なのに日差しが強い。今日も暑そうだ。地図を見ると、木之本駅というのがもうすぐあるようだ。そこで少しでも休もうと思ってちょっと道が遠くなるのを我慢して駅にいくことにした。駅に着くと、まったくなにもない駅。ベンチくらいしかない。これじゃあ休むことはできても暑い。とんだ無駄足だったなと後悔しつつ8号線に戻り、暑くて死にそうになりながら我慢して走る。いくつも駅があったけどどうせどの駅も同じだろうと思い、駅にいくのはやめた。コンビニが結構あるようになったのはどこらへんからだっただろうか。とにかく最初の頃は全然休むところがなくて自販機のある陰くらいが休める唯一の場所だった。
 ものすごく暑かったのでたくさんジュースを飲んだ。飲みすぎて一度下痢ぎみになったが、我慢して走っていたら治ってしまった。治ったらまたすぐに飲んだ。飲んでも飲んでも喉が乾く。どんどん汗になって出ていってしまう。ジュースを飲むとすぐなくなってしまうしそれほど涼しくなれないなと思い、コンビニでかちわりを買ったんだけど、それはそれで失敗だった。食べ終わったあとものすごく喉が乾いて結局もう1本ジュースを買ってしまった。これじゃあなんの意味もない。そういえば行きにもそんなことがあったな。まあそれはいいか。コンビニがあるようになってからはコンビニで涼むことにした。でもコンビニにはいると思わず飲み物を買ってしまう。何度も反省しつつ、それでもやっぱり買ってしまう。あーあ。どこか涼しいところで寝たら気持ちいいだろうなと思ったけど、そんな場所は見当たらない。涼しいだけの場所(コンビニ)と寝られるだけの場所(駅やバス停の待合所)はあっても、両方を同時に満たすところはない。大きな駅だったら冷房がきいているかもしれないと思い、米原駅にちょっと期待したけど、まったくの期待はずれ。なにもない。腹が減っていたので飯が食いたいなとも思っていたんだけど、それすらできない。駅前に飯を食えそうなところが2軒くらいあったんだけど、両方ともやってなかった。もうすぐ昼という時間なのに、どうなっているんだろう。たしかにこの駅で降りる人もこの駅から乗る人も少ないだろうから店をあけていても客はほとんど来ないだろうということは予想できるけど。
 期待はずれの米原駅を去り、彦根市へ。彦根駅ならなんかあるかなと思ったけど、なにもないかも知れないからいくのはやめた。腹が減ったので「和食さと」とかいう店(チェーン店らしい。8号線沿いに4軒くらい見た)で昼飯にした。あまりにも眠かったので注文してからくるまでのあいだに寝てしまった(あ、そういえばそれより前に8番ラーメンというラーメン屋でラーメンを食ったぞ。あれはいつだったっけ。福井県にいた頃だよな。1時か2時くらいだったような気がするけどよく覚えてないな。野菜がたくさん入っていてなかなかおいしかった)。で、「お待たせしました」という声で起きた。食べている間も何度かうとうとして、食べるのにものすごく時間がかかった。でも涼めたのでよかった。横になって寝たいなと思ったけどさすがにそんなわけにはいかないだろう。

 店を出てから眠くなるかと思ったけど意外と大丈夫だった。でもまだ京都までは長い。まだかなりある。そこからしばらくもまたコンビニを渡り歩いた。近江八幡あたりでトイレにいきたくなって、野洲駅にいくことにした。でも駅にトイレがなくて、駅の近くにあったスーパーでやっと見つけた。死にそうだった。それからもまたコンビニ通い。コンビニだけで40軒は入ったと思う。すごいな。そこらあたりから日焼けで額が痛くなってきて、タオルを巻いてなんとかした。瀬田駅のトイレでタオルを濡らしてしぼらないまま頭に巻いて、暑くなったらタオルを押さえて水を垂らして暑さをしのいだ。多少は涼しくなったけど、やっぱり暑かった。そこらへんで温度の表示があって38度だったのはショックだった。そりゃあ暑いわけだ。それから、石山駅で涼めたら涼もうと思っていたんだけど、いつのまにか行きすぎていた。大津駅の前も通ったはずなのに覚えていない。また寝ていたんだろうか。それから161号線と合流してちょっと坂を上って三条とわかれる少し前で右側に渡ろうと思ったんだけど、渡る場所がなくて大変だった。強引に渡ろうかと思ってしばらく車の流れが途切れるまで待っていたけど、結局渡れず、歩道橋で右側に渡った。右側に渡っておかないと三条に行けないから、こわいのを我慢して右側を走った。それでなんとか三条に入ることができ、山科のどこかの交差点で信号待ちをしたのが午後7時くらい。それから九条山の坂。前に敦賀に行って帰ってきたときにはものすごくきつく感じたんだけど、今回はなぜかすいすい登れた。休まずさくっと登って今度は下り。下りもさーっとおりて、ふう。もうすぐだ。
 鹿ヶ谷通を登って丸太町通まできて、丸太町通を西に進んで適当なところで北上。ごちゃごちゃしたところを走って、、やっと帰ってきた。そのときもう午後7時半近く。
 長かった。60時間くらいのうち2時間くらいしか寝てない。もう死にそうだ。足は痛いし、体中ぼろぼろ。手や顔は真っ黒に汚れている。家に帰って頭を洗ったら洗った湯が黒かった。もうこんな旅行はしたくない。疲れるのはともかく、汚れるのはもういやだ。排気ガスで苦しいし、なにもいいことがない。飲み物代もかかるし、体もこわすし。(と、いってもまた行くんだろうな)
 でもまあいろいろ体験できてよかったといえばよかったかもしれない。トンネルで後ろからトラックがきてもあまりこわくなくなったし。死ぬのはこわいけど、死にそうになることはこわくなくなったかもしれない。ま、いろいろあった。書き尽くせないくらいいろんなことがあった。今となってはすべていい思い出と言えるかもしれないな。

(おわり)

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